2016年01月11日

悲愴な表情

平静を装《よそお》いつつ、じつは松宮は興奮していた。ペンを持つ手の内側は、滲んだ汗で濡れていた。
 小林との電話の後、前原直巳のアリバイを確認してほしいと加賀に頼まれた。
「両親は拒むだろうが、そんなものは無視していい。あまり頑《かたく》なな態度をとったら、君が直接部屋に乗り込むといえばいいんだ。直巳が出てきたら、徹底的に細かく追及してほしい。昨日の話ではゲームセンターに行っていたということだったが、どこのゲームセンターか、どんなゲームをして遊んだか、何か印象的な出来事はなかったか、ということまで訊くんだ。相手が怒り出すくらいしつこくやっていい。たぶんそんなことはないと思うがね能量水。それから、パソコンを持っているかどうかもさりげなく確認してくれ」
 どうやら加賀は前原直巳を疑っているようだ。しかしなぜそう思ったのかは松宮に話してくれなかった。
 それだけのことを松宮に指示すると、白分は田島春美に会いに行く、と加賀はいったのだった。
 何のために、と松宮は訊いた。
「事件を彼等自身の手で解決させるためだ」それが加賀の返答だった。
 その彼が戻ってきた。しかも春美と一緒らしい。一体これから何が始まるのか、松宮にも予想がつかなかった。
 玄関に出て行ったはずの八重子が暗い顔で戻ってきた。
「あなた、春美さんよ」
 うん、と前原昭夫は頷く能量水。やがて八重子の後ろから、の田島春美が現れた。その後ろには加賀がいた。
「あの……どうして妹を?」前原が加賀に訊いた。
「おかあさんのことを一番よく御存じなのは妹さんでしょう」加賀はいった。「だから来ていただいたのです。事情はすべてお話ししました」
「……そうでしたか」前原は気まずそうな顔で妹を見上げた。「驚いたと思うが、そういうことなんだ」
「おかあさんは?」春美は訊いた。
「奥の部屋にいる」
 そう、と呟いてから春美は深呼吸をひとつした。
「母に会ってきてもいいですか能量水
「いいですよ。行ってあげてください」
 加賀にいわれ、春美は部屋を出ていった。前原夫妻がそれを見送った。
「松宮刑事」加賀が松宮のほうに首を捻った。「息子さんから話は?」
「聞きました」


Posted by 淺笑嫣然 at 12:15│Comments(0)
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